坂東蛍子、日常に飽き飽き

坂東蛍子、日常に飽き飽き (新潮文庫nex)
――ねぇ、指相撲して仲直りできると思う?



ものすごい群像劇をここに見た。いや読んだ。
それは、たった1人の女子高生を中心に据え、しかし彼女以外の多種多様な面々が(人間のみならず、ぬいぐるみが、宇宙人が、アンドロイドが)奔走し、ついには世界の危機に立ち向かうという物語。
怒濤の如く展開されまくった風呂敷は、果たして実にこぢんまりと収束し、最後は幼馴染みとの仲直りをもって幕を下ろした。
……と聞くと、まず連想されるのが『涼宮ハルヒの憂鬱』だ。
本人に世界を覆している自覚はないが、周囲の超人類+αが中心人物たる涼宮ハルヒを巡って駆け回り、最後は疾走する思春期のパラベラム的な勢いで終幕する、この感じ。
ただこの『坂東蛍子〜』には、キョン的ポジション、いわゆる語り部が存在しない。
強いて言うなら黒兎のロレーヌがそれに当たる気がしないでもないけど、どちらかといえば彼は傍観者だし違うかなと。
蛍子は、いろいろと思い悩む。
類稀なる容姿と運動能力と経済力を持ちながら、胸裡に抱えているのはささやかな、歳相応の悩みだ。
それが巡り巡って世界の危機やら宇宙人の地球進攻に繋がって、でも本人だけは自覚がなくて……という感じ。
入間人間なんかで群像劇の面白さを知った俺としては、とても楽しく読めたと思う。
それまで登場した人物の関係性が互いに絡み合う後半は特にそう。
しかも、最終話における文字通りの“疾走感”が相まって、とても心地良いジェットコースターノベルという趣でした。
その分、キャラクタを把握してないうちからドンチャン騒ぎを進める第一話は、読みながら頭上にハテナマークが舞い踊ってたかな。
ただ、一話以上にファンタジー方面へぶっ飛んだ二話からこちらの脳が順応してきたのかして、困惑そのものが楽しくなってきたりして。
なかなか不思議な読書体験だったなー。
続きが出たら読む……かな?