種死① 宣告

結婚から約2年、なかなか子供ができないので、そろそろ検査でもしてみるかーという話に。
近くにわりと人気なレディースクリニックがあったので、先日から嫁と通って早3回目。
前回は、嫁の検査と並行して、ついに俺の精液(ティースプーン一杯分)を提出したり。
俺か嫁のどちらかに原因があったとして、そもそも異常の有無を知らなきゃベクトルも定まらないもんね!
……そんな風に軽く考えていたことを思い知る。
そう、軽く見ていたのかもしれない。
無精子症』。
つまり、提出した精液の中に精子が一匹もいない、という。
医師の言葉を聞いても、どういうことなのかが理解できなかった。
……ん?
ないの?
精子が?
なんで?
何か、何か訊き返さないと。
そうだ、嫁にも声をかけてあげないとーー、


そのとき、嫁は泣いていた。
目と鼻を真っ赤にして、涙を流していた。
その顔を見た瞬間、がん、と頭を殴られた感覚に襲われた。
目の前が真っ暗になる、という慣用句の意味を正しく理解できた。
足元が揺れる気配。
眩暈。
なんだこれ。
精子がない……?


ただ、無精子症には『閉塞性』と『非閉塞性』の2種類があるらしい。
前者は、睾丸から精子を送り出す機能が欠けているというもの。
精子の生産自体はできているため、睾丸から採取さえすれば体外受精を望める可能性がある。
問題は後者ーーそもそも精子を生産する機能がない。
無精子症罹患者の8割は後者らしい。
仮に後者でも方策がゼロというわけではないみたいだけど、可能性は非常に低いという……。

ともあれ、まだ絶望するわけにはいかない、よな?
まだ自分が閉塞性か非閉塞性かも調べてないし。
まず、泌尿器科へ行って、俺がどちらなのかを調べてもらおう。
最悪な想像が脳裡を爆走しまくって、正直えげつないくらいヘコむけど、ツラいのは嫁も同じだし、前を、とにかく前を向いて進みたい。
歩みを止めちゃあ駄目だ。