“文学少女”と慟哭の巡礼者

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

――なら、奇跡を起こしてくるわ。



膵炎の入院時に持参し損ねた挙句、今日まで完全放置していた“文学少女”シリーズ第5巻。
こいつを読みもしないまま他の本を積んだりしちゃって申し訳ねぇー。



これまでにじわじわと存在を匂わせていた朝倉美羽が、ついに登場。
心葉が信奉してやまず、しかし決して消えない瑕疵でもある少女だが、待ち受けていたのは感動的な再会などではなく――。
ああっ、どうしてこの作者は、こうも人間のドロドロ具合を書くのが巧いのかっ。
少女漫画ばりのイラストに騙されたかつては涙目かもしれないけれど、今やその組み合わせが神懸かってすら感じられる。
ラノベの挿絵で泣かされかけたのは初めてだよ畜生!



しかし琴吹ななせはいちいち可愛いなぁ。
冒頭の初詣然り、美羽とのガチバトル然り、やることなすことが可愛すぎて困る。ななせは俺の嫁として登録されました。
あと、竹田千愛もたまらん。
流人と好みがカブってしまうけど、彼女の壊れかけたところがたまらなさすぎ。
単純な救いなんて欲しくないものの、彼女ら二人についてはこれから、是が非でも悶絶させてくれるような展開を期待したい。
きっと野村美月ならやってくれる!



――と書いてきたけど、俺の本命は“文学少女”こと天野遠子先輩ですね。
ほんともうこの人は傷付いた心に手を差し伸べるのが上手でいらっしゃる……。
なんかね、ふとしたワンシーンがざくりときて、不意打ち気味に涙が出そうになるから困る。
「ご覧のとおりの“文学少女”よ」なんて名乗って、俺の前に現れてはくれないものか。



さて、物語はクライマックス。
刊行中の外伝を挟んで、本編はあと一巻で完結するとかしないとか。
たしかにgdgd続くよりは綺麗に終わる方が好きだけど――いざ終わりが近付いて惜しくなるのは、ヒトの哀しいサガってやつで。
ともあれ冬もあと少し、その後に待つのは暖かな春か、それとも。



最後に、心にキた宮沢賢治の詩を。
抜粋してマズいようなら速やかに消しますが。       

      海の縞のやうに幾層ながれる山稜と
     しづかにしづかにふくらみ沈む天末線
     あゝ何もかももうみんな透明だ